木原千春は、山口県出身の独学で油絵を制作を続けている画家です。
モチーフは、動物であったり、昆虫であったり、植物だったり、山や川にいる生き物を主には選んで描いており、その生命の持つ野性的で生命力の溢れる躍動感や、その生気が周りに広がって取り囲む空間を活発に変えてしまうような雰囲気を、とても鮮やかな色彩やハッキリとした濃淡を用いながら、力強いストロークで描き出します。
色をあまり混ぜない原色のような発色を持つ良い一つづつの色を組み合わせて、大きなパズルを完成させるかのように、ぐぐっとはめこんでいくように描かれた色彩は、弾むような活気を持ちながら互いの存在を主張しあい、キャンバスを色とりどり満開に彩ります。また、水墨画のように思い切り良く鮮度を持ったストロークは、勢い良く伸びやかに隣り合って、晴れた日の朝に太陽の光によって全てが明るく照らされて、気持よく伸びをしているような健康な雰囲気を作り出しています。彼女の頭の中で元気よく動いている生き物達の新鮮で活きが良い個性的な雰囲気が、キャンバスを超え、その周りの空間や日常に勢い良くはみでて、人を明るく元気で活動的な気持ちにさせます。
文章|湊健雄
横山麻衣は、東京藝術大学大学院美術研究科後期博士課程美術専攻を修了後、版画の手法を併用しながら、色鉛筆やクレヨンやマーカーによって描かれたドローイングを中心に制作をしている作家です。
幼い頃にノートの端に描いていたような、単純でシンボリックで印象的な落書きのような記号的モチーフを、キャンバスの大きさは決めずに期間だけを決め、どこまでも何百個何千個と描き続けます。全体的な輪郭を決めずに、何かに突き動かされるように意識的に一個一個と描かれた記号群は、無意識に綴られる幾つもの関係達の中に取り込まれていき、様々な人間や物体の縦横無尽な動きや在り方を内包しながら、幾重にも時間が堆積された、どこまでもいつまでも流動的に広がり続ける都市のような表情を垣間見せます。
作品の中にある一つの記号を意識的に見てみると、その隣にある記号へと視線が移ります。両者の関係性を見つけようとしても、よく分からず、その手がかりを見つけようと、さらにその隣や周辺へと、きっかけを求めて辿っていくと、視線はうろついて、何を見ようとしていたのか分からなくなり、様々な場所や時間や風景が交じり合った走馬灯のような世界へと誘われます。人々の心や頭の中にある数々の記憶や経験は、脈絡もなく雑多に集められたとしても、小さなムクドリが群れとなって動いて一つの何かに見えるように、有機的に融合されたかのような不明確でハッキリとしない輪郭を持つ蠢く一つの存在や雰囲気となって、その人の心や思考を活気づけるモノなのかも知れません。
文章|湊健雄
佐藤令奈は、多摩美術大学絵画学科油画専攻を卒業し、主に油絵を制作しているアーティストです。様々な境界が溶けていくような感覚を視覚的に感じさせる事をテーマにしており、近年は物理的な境界を超えて伝わっていく温度や感情に着目し、人の肌や赤ん坊を主なモチーフとして作品を描いています。
人と人が直接に触れ合う瞬間は、物理的な境界や温度差を感じる一方で、その体温が緩やかに伝わっていく感覚を感じさせます。それは人と人の心や精神の境界が溶け合えるような柔らかな感覚へと繋がっていきます。穏やかに眠る赤ん坊は、自分と世界との境界が、まだはっきりと無い、緩やかな意識をもった存在です。また、そのふわふわとした柔らかく温かい存在とは、世界中の人々が文化や国籍や言葉や年齢や性別の違いを理解しあわなくても、実際に触れ合ったりしなくても、そういった意識の垣根を超えて同じような感触が伝わっていく印象を人に与えます。そういった瞬間や存在を視覚的に感じる事で、人と人とのはっきりとした意識の 境界を曖昧な領域として肯定的に捉え直す事が出来ます。はっきりとしない不安定 な感情が許されたり、そういった感情を持つ他人を許してあげれるような原初的な 優しい状態へと人の心を変化させていきます。
文章|湊健雄
2008年 多摩美術大学油画専攻 卒業
2018年 (財)神山財団芸術支援プログラム 第5期生
2015年 南京国際美術展 入選
2009年 トーキョーワンダーウォール賞 受賞
近年の主な展覧会に「體溫物語 Story of Skin」(2018年、Shun Art Gallery,上海/中国)、「若葉集」(2018年、藍頂美術館,四川/中国)、「中之条ビエンナーレ2017」(2017年、中之条町,群馬)、「トーキョーワンダーウォール都庁 2009」 (2010年、東京都庁,東京)がある。
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